< 「モモ」感想文 >





 10 April 2015

「時間」それは、するりとぬけていって、とらえどころが
ないもの。「いま」「この瞬間」をとらえようとしても、
またたく間(ま)にそれは過去となってしまう。それなら、
と反対に未来をつかまえようと待っていても、たちまち現
在(いま、この瞬間)になって、あれれ?と思っている間
に過去になってしまう。

 だから「いま」なんてものはなく、過去と未来しか存在
しない、と言ったヒトもいるし、反対に「いまという刹那
を生きるべき、それしかないのだ」と言った、ブッダのよ
うな賢人もいる。時間をしっかりとらえている数学者や物
理学者はたいていこう言う。「時間って、ネバネバしてい
ますね」と。

 このような読書感想文を書いている間(あいだ)にも、
ぼくの人生の時間は容赦なく過ぎ去っていく。けど、この
すばらしい本「モモ」をみなさんにもぜひ読んでほしくて、
いま、キーをたたき始めたところ。

 著者「ミヒャエル・エンデ」は南ドイツで生まれ、イタ
リアに住んでいたこともある。この「モモ」はどうやら彼
がイタリアに住んでいた頃に書かれたようだ。(幸運なこ
とにぼくは南ドイツ(ミュンヘン)へ二回、イタリア(ミ
ラノ、フィレンツェ、ローマ)へ一回、旅をしたことがあ
る)

 イタリアの都市を訪れたとき、日本人であるぼくから見
ると、イタリア人はのほほんとした生活をしているように
見えたけれど、エンデから見れば、あぁ、都会人ってのは、
なんて忙しい生活を始めちまったんだ!ということなのだ
ろう。とにかくサラリーマンというのは朝から晩までめっ
ちゃ忙しい。

 少しでも多くおカネを稼いで、より良い生活を!なんて
思っているのかもしれないけど、みんながみんな、そう思
っているもんだから、実際にはたたきあいになっている。
他社より優れた製品をいちはやく開発し、売り出すのだ、
なんて言ってる横で、その他社にすぐに似たような製品を
開発されちゃって追いつかれる(笑)けど、その頃には在
庫がだぶついているもんだから「もう、安売りしかない!
」となる。なぜなら次の新製品が開発済みだからネ。なの
で今度は値段のたたきあいになって、結局だれももうから
ない(笑)

 サラリーマンという生き物はだいたいこういった歯車に
組み込まれちゃってる。ぼく自身が日系、アメリカ系、ド
イツ系のコンピュータ会社で計11年間、見てきた現実だ
から間違いない。

 さぁ、話を「モモ」に戻そう。読書中にたいていのヒト
が氣づくだろうと思う。「時間泥棒」は決して外部からや
ってきたのではなく「あなた自身の中にいる」と。だって、
そうでしょ?

「サラリーマンなんてやめたい!」と言ってるあなた自身
が、過去に履歴書を書いて、応募して、面接を受けて、見
事受かって!入社した会社でしょ。みんな自分の人生は自
分自身で、日々、選びとっている。だから、自分の時間を
より多く持ちたいなら会社員なぞやめてしまえばよい。ぼ
くは2003年に会社員というものをやめて、ほんとうに
よかったと思っています。

 この本の中の「時間泥棒」という灰色のスーツをピシッ
と着た連中は、ほかならぬ自分自身の「もう一人の自分。
」けど「モモ」をよりおもしろい物語にするには「灰色の
スーツを着た連中」に登場してもらうのが一番。さすがエ
ンデ。

 みんな日々、頭の中で「正義の味方」と「悪の帝王」が
対話を続けているんだと思います。(かく言うぼくもそう
)けど、なにもこの「灰色のスーツを着た連中」をワルモ
ノと決めつけたくもないな。だって、時間をだいじにしな
さい、と言ってくれているわけだから、その部分では正論
だもの。

 ただ、一日の中のゆっくりする時間、リラックスする時
間、それに友だちや家族と楽しく(ときにシリアスな)会
話をする時間を無駄な時間と決めつけてくる「灰色のスー
ツを着た連中」は、ほとんどの読者が、それは言いすぎよ、
と言いたくなると思う。

 ん?でも待って。考えてもみてください。最近、友だち
や家族と、みんながリラックスしてほんとうに素敵な食事
をした、もしくは素敵な時間を過ごしたことがありますか。
週に一回でもあればすばらしいと思います。けど、三ヶ月
に一回くらいしかないとしたら、ずいぶんさみしい人生だ
と思いませんか。

 ぼくにもそういう経験があるからわかります。働きすぎ
ると、ほんとうに余裕がなくなってくる。リラックスする
時間がないばかりか、友人と会うこともなくなり、家族と
ゆっくり話すこともなくなる。土日はできる限り横になっ
ていないと、からだの疲れがとれず、月曜日から働くこと
ができない。とにかく会社中心の人生になっちゃう。

 会社を辞めるのが一番いいとは思うけど、収入がゼロに
なったらどうすればいいんですか?なんて初歩的な質問も
きそうだし(個別に回答します)、全員には、一概には、
言えないのかな。それに自営業でも軌道にのってくれば(
立派なことです)サラリーマンと同じくらい忙しくなって
くるわけだし。(自営業も経験、あります)

 結局、おカネの問題になってくる。時はカネなり。
Time is money. 自給800円のアルバイトもサラリーマ
ンも、自分の人生の時間を切り売りして報酬をもらってい
るにすぎない。

 なのでエンデは、死ぬ前に「エンデの遺言」をNHKの
取材班に対し、カセットテープに残してくれた。その内容
は「おカネとはなにか。その価値を根源から問う」という
もの。(NHK出版「エンデの遺言」根源からお金を問う
)

 パンは一週間もすれば腐ります。けど、おカネは腐らな
い。反対に一ヶ月単位で利子が増えていきます。

 考えてみれば、身の回りにあるクルマもパソコンも年々、
価値が下がっていくのに、おカネだけは利子がついて価値
が上がっていく。たんす預金なら利子は増えないけど、少
なくともおカネの価値は(あまり)下がらない。

 これが理由で、人類はついに「おカネ」を崇拝するよう
になってしまった・・しかし、おカネは不滅の「神」では
ない。にんげんは「神」をつくることはできない。

 なので、貨幣経済が終焉を迎える日まで「おカネ」は際
限なく増えつづけ、やがて破綻するのでしょう。そうなら
ないための、エンデからの提案は、世界中あちこち(数万
以上の地域)ですでに始まっている「地域通貨」です。

 たとえば、米国イサカの有名な地域通貨「イサカ・アワ
ー」は、名前の通り、一時間分の労働をすると、手にする
ことができます。いつまでも地域内を循環する通貨なので、
地域の経済(パン屋、美容院、税理士、ガソリンスタンド
などなど)を活性化するために働き続ける通貨です。利子
がつかないので、長期銀行に預金されてしまうことなく、
常にイサカ地域の市場で出回ります。おカネは言わば血液
と同じように循環して、初めて地域経済の健康を保つこと
ができるのです。

 イサカ・アワーのすばらしい点はまだあります。なんと
米国政府から正式に認められた通貨なのです。もともとイ
サカ・アワー(地域通貨)は、世界的に信用が落ち始めて
いる米ドルから少しでも離れたいイサカの人々が考案し、
つくり上げたものでした。もし突然米ドルの価値が半減し
ても、地域通貨をもっている人々は、深刻な影響を被らず
に生活を続けられます。言わば反政府のような思想をもっ
ている地域通貨のひとつが米国政府にその存在を正式に認
められているなんてすごいと思いませんか。

NHK出版「エンデの遺言」(根源からお金を問う)の書
籍はどなたでも入手できます。DVDもあります。また良
いサイトもありますので、どんな内容なのかも事前に情報
を得ることができます。

 さて、話を「モモ」に戻します。ブカブカの背広を着た
「モモ」は良き聞き手なのです。「ただ、相手の話を聞い
てあげる」これ、かんたんなようでいて、多くの現代人は
不得手ではないでしょうか。みんな自分の話を聞いてほし
くて、口を開くものの誰も聞いている人はいなかった、な
んていう状況、よくありますよね。

「モモのところに行ってごらん!」これが、物語の序盤で
交わされる町の人々の合言葉でした。みなそれぞれ悩みは
ある。けど、モモのところへ行くと誰もが自然に心を開い
てしまう。本人さへ氣づかなかった本心を(モモの前なら
)スラスラ話せるので、自ずと悩みも解消・解決してしま
うのです。あぁ、モモはなんて素敵な女の子なんでしょう
!ボクも一度、モモに会ってみたいものです。

 物語の中盤。ひょんなことから、モモはファースト・フ
ード店で忙しく働く、旧友である店主に会いに行きます。
けど、お客さんも店主もみな忙しそうで、ゆっくり店主と
話ができなかっただけでなく、たくさん食べたのに、なに
を食べたのかわからない、という事態に陥りました。ぼく
もパーティー会場にてこういう経験、あります。20種類
のものを食べたんだけど支離滅裂でなにがおいしかったか
も思い出せない、という経験が。

 時間の国には美しい花があります。おいしい食べ物もあ
ります。活字を読んでいるだけなのに、何度も美しい情景
が目の前に浮かび上がりました。

 この物語は、エンデは鉄道の中で「ある人物」から聴い
たと、あとがきで書いていますが、それが「ほんとうなの
か」は、もう誰にも分からないこととなりました。ま、そ
れでいいのでしょう。ぼくは、エンデがその人物からある
「物語」を鉄道の中で聴いたのは事実。で、その物語を昇
華させたのがエンデなのではないかと想像しています。

 素敵な物語をこの世の中に残してくれてありがとう!ミ
ヒャエル・エンデ!大好きです。
Top Page




inserted by FC2 system