< 映画「コクリコ坂から」感想文 >





 28 February 2015

 さいごまで観終わって、つい微笑んで(ほほえんで)し
まった。ほのぼの、しかし高度経済成長期まっただ中でも
あった「昭和中期」を時代背景とした映画。

 東京オリンピック(1964)を前に、首都高速や巨大
なビル郡をつくり続けていたあの頃。ぼくは1968年、
生まれなので、ぼくが生まれる少し前、その頃に高校生や
大学生だった人々は、いまは75歳くらいだろうか。

 舞台は横浜。小高い丘に洋風の家々が並ぶ。主人公の「
うみ(メル)」の家からももちろん広大な海が見える。そ
の海を行き交う商船に対し、毎朝、旗(はた)を上げて旗
信号(文字信号)を送り続けるのには理由があった。

*

 学校には部活動に学生たちが使っている古めかしい建物
「カルチェラタン」がある。これの建てかえ話が持ち上が
っていて、一方、反対運動も同じくらい盛り上がっている。
ここへ「メル」のあるアイディアが入ったことによって、
ちいさな流れができ、やがて大きなうねりとなって物語は
展開していく。

 なつかしいガリ版刷り(若い人はご存知だろうか)の新
聞を継続的に発行している「しゅん」。インターネットが
なかった時代、なにかをみんなに知ってもらおうと思った
ら、当時はガリ版刷りしかなかった。ぼくが小学生の頃に
も健在だった。

 メルがしゅんに「なにか手伝うこと、ありますか」と問
えば、しゅんが「あぁ、じゃぁ、これを頼む」と文字をガ
リ版ペンで書く仕事をくれる。「完成は二日後でもいいで
すか」「あぁ、構わない」と言った感じ。もちろん金銭の
やりとりはない。学生同士、部活動だから。

*

 共通した写真が出てきたことによって、また、身近な人
からのもっともらしい昔話によって、物語の中盤、ある事
実が浮かび上がる。けど、映画を観終わって一日経って、
いま、思うに、その事実があったからこそ、メルはしゅん
に「それでも、好き」のひとことが言えたのかもしれない。
そう思うと、そういう状況に一度置かれた二人はラッキー
だったのかも。

 若い男女の初々しい恋愛?いや、恋愛の前段階?を描い
ている作品だと、ぼくはとらえつつあるのだけども、二人
ともほんとうにすがすがしい。いやらしい感じが皆無。お
互いに尊敬し合っている姿勢が、観ていてほんとうに心地
良い。

「性」のにおいを、この映画のように、とことん遠ざける
のが一番いい、なんてことをもちろんここで言うつもりは
ない。ぼくは、たとえばフランス映画「トリコロール」(
愛の三部作です)のような作品も大好きだったし、いまで
ももう一度観たいと思っている。愛なんてわからんもんだ
し、危険?なもんだし、愛=衝動かもしれん。こわいなー。

 けど、映画ならそのギリギリのスリリングな(きわどい
)部分を表現できてしまうし、観客として楽しめてしまう。
(あぁ、複雑な動物なんだなぁー、にんげんって、つくづ
く)

 よく言われるけど、恋愛と結婚って違うの?という問い
かけ。若かりしとき、ぼくもそんなことをよく考えていた。
スタンダールの「恋愛論」を読んだら、困ったことにます
ます恋愛しづらくなった(笑)

 理屈じゃねーんだよ、恋愛は。それに恋愛と愛も違うよ
うだし・・愛=性なの?いやー、違うでしょ?愛情と愛も
違うという。ま、とにかく、やってみないと始まらない(
笑)まー、恋愛と結婚は違うわな。結婚は戸籍を入れるっ
てことだもんね。結婚後の長ーい人生生活(夫婦生活、子
育て)を想像しながら、相手を選んで恋愛を始めるのも変
かな。人生、けっこう短いんだけど、ある意味人生、長い
とも言える。(いや、短いよな!)

 やっぱり、自分を磨くっていうことじゃないかな?自分
を磨き続けていれば、良いヒトが振り向いてくれるよ。も
しくは、そこまで磨いている自分が、好きな女性(男性)
に「好き」というひとことを本心からかければ、相手だっ
て、全身全霊で応えてくれるはず。もし、答がNoだとし
ても、それなりのていねいな対応があってしかるべき。

 自分がしっかり、やりたいことを見つけ、それへ向かっ
て、一歩一歩、毎日、進んでいれば、それだけで、自分は
輝いているだろうから、異性も(また同性も)、自然に近
寄ってくる。「あー、最近、いいおんな、いねーなー」と
か「あー、最近、いいおとこ、いないよねー」とか愚痴っ
ているヒトに限って、自分を磨くことを怠っている。ほん
ま、見ていて、格好わるいし、はずかしいし、だらしない。

 この映画は、その対極にある。うみ(メル)もしゅんも
ほんま、格好いい。メルは可愛いし、しゅんは男らしい。
お似合い。良い夫婦になってほしいと心から思う。

「抑えが効いた恋愛」や「古風な恋愛」は、現代社会には
そぐわないのだろうか。そんなものそぐわなかろうが、な
んだろが、ぼくは好きだな。

「抑えが効いた恋愛」や「古風な恋愛」は、エロティシズ
ムにおいて、「現代の即ベッドシーン的な恋愛」に劣るの
だろうか。そんなことはないぜ。むしろ勝るだろう。うみ
としゅんみたいに「性」を感じさせずに、自然にほどよく
抑えが効いて、恋愛をスタートできれば、きっと、互いの
「愛」はゆっくりと熟成され、育まれ、「良い形」を成し
ていくだろうと思う。みんなが忘れかけているほんとうの
「歓び」を幾度となく感じるはずだ。

 この映画はガリ版刷りのような「手作業」がまだまだ残
っていた良き時代、昭和中期を思い出させてくれると同時
に、男と女は恋愛の初期にも、結婚後にも、老人になって
からも、お互いに尊敬すべきだということ。それに、かけ
がえのない伴侶を、日々、大切にしてあげたら、どんなに
自分に、それだけの愛が返ってくるかを、想像させてくれ
る貴重な美しい恋愛映画だと、ぼくはそんなふうにとらえ
ている。

 宮崎駿さん(企画)、宮崎吾朗さん(監督)、こんな素
敵なアニメーションを制作してくださって、どうもありが
とう!涙がまた出そうです。

 ラストシーン。しゅんがうみ(メル)のからだを一瞬だ
け、偶然に抱きかかえるシーンがある。わずか一秒間のシ
ーン。その俊敏さ(おー、俊の名前じゃないか)そのてい
ねいさ、器用さ、思いやりなどに感動!

 女性のからだを、女性の命をどうやって、男は守るべき
か、彼はすでに知っているし、一瞬の行動でもごく自然に
示すことができる。格好いい!
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