<なぜメルセデスベンツのSクラスのような大きくて重いクルマが存在するのか、知っていますか>





 29 December 2017

なぜBMWの7シリーズのような大きくて重いクルマが存在する
のか、知っていますか。

ステータス性のためだけなのだろうか。大きいクルマは偉そう
に見えるから、ホテルに到着したときに、ホテルマンの応対が
違うのはわかる。

小さい家よりも少しだけ大きい家の方が立派に見える。また7
階建てのビルよりも25階建てのビルの方が立派に見える。そ
もそもその25階建てのビルは高さだけでなく横幅もあって、
入り口の自動ドアひとつとったって幅も高さもあって、堂々と
していて恰好いい。

はて?クルマも家やビルと同じなのだろうか。確かにメルセデ
スベンツのSクラスやBMWの7シリーズは高価なので、ま、20
00万円くらいのクルマなら現金で買えるよ、というくらい余
裕のあるヒトでないと買えない。

なので、ホテルマンだけでなく通りを歩く人々、誰が見てもメ
ルセデスベンツのSクラスやBMWの7シリーズを見れば、あぁ、
たぶんお金持ちが乗ってるんだろう、と思うし、それはたいて
い当たっている。これをステータス性という。

じゃぁやっぱりステータス性だけなのか?大きいクルマを持つ
意味ってのは。

オレは金持ちなんだ。お前らとは違うんだ、と無言のうちに自
慢できるし、人々にわからせることができる、それだけが大き
なクルマを買う意味なのか。

もちろん半分は当たっているけど、半分は間違っている。つま
り百点満点の50点。

ドイツのクルマの進化を見ればわかる。

人類が初めてクルマを発明したときは、やはりどこか馬車に似
ていた。ただ馬の代わりにエンジンが付いていて、そのエンジ
ンによって生み出される駆動力によって走ったので(馬が引っ
張るのではなく)人々を驚かせた。

改良に改良が重ねられ、ついにはフォルクスワーゲン・ビート
ル(愛称:カブトムシ)のような4人が座れて、雨にもぬれず、
メンテナンス性も良いクルマが発売された。価格も大量生産に
よって安価になり誰でも手が届くようになった。

その後、フォルクスワーゲン・ゴルフのような、4人がさらに
快適に座れ、後部に荷物も多く載せられるようになった。FF(
前にエンジンがあって、前輪を駆動する)という、いまでは当
たり前になっちゃったけど、当時としては画期的な駆動方式だ
った。

ここまでの、こういう話をするのはぼくは好きなのだが、今日
の本題はこれじゃない。大きいクルマの存在する意味を語らね
ばならない。

人類は小型車を大量生産することに成功したあと、今度は中型
車や大型車の開発へも裾野を広げていった。

フォルクスワーゲン・ビートルはRR(後ろにエンジンがあって
後輪を駆動する)。しかしビートル以前、つまり最初のクルマ
が発明されたときから、なんと2017年現在まで脈々と生き
残っている駆動方式がある。それはFR(前にエンジンがあって
後輪を駆動する)。

現在はフォルクスワーゲン・ゴルフのようなFF車が主流なのだ
けど、FR車もしぶとく生き残っている。それがメルセデスベン
ツのSクラスやBMWの7シリーズ。

そろそろ頭がこんがらがって話についてこれなくなったヒトも
いるだろうから、話をかんたんにしなくちゃならない。なので
RRの話は今日は省略する。

なのでここからは、

・FR(前にエンジンがあって後輪を駆動する)
・FF(前にエンジンがあって前輪を駆動する)

のふたつの駆動方式に話を絞る。

まず、FR。

これは設計者が設計をしやすかった。エンジンやら冷却装置や
らなんやら、エンジンに付随するものがとにかくスペースをと
るので、クルマの前にエンジンを置く、というのは自然なアイ
ディアだっただろう。しかもエンジンがなかなか小型化できな
かったわけだし。

で、4人の大人が座れる空間をつくる。んで、そのシート(い
す)の下に結構太いポールが入っている。エンジンから上手に
ディファレンシャル(ある方向から90度の方向へ駆動力を伝
えるために考案された歯車)をいくつか組み合わせて、その結
構太いポールを回して、そのパワーを後輪に伝えてFR車は走っ
ている。つまり、後輪(後ろの二個のタイア)が地面を蹴って
走っている。

では前輪の仕事は?それはみなさんご存知。ハンドルを右へ回
せば右へ。左に回せば左へ、クルマは向かってくれる。

つまりFR車は、前輪と後輪で上手に役割分担している、そうい
う設計だと言える。

FR車が完成してから、人類の夢はFF車をつくることへと移った。

あまりクルマの設計に詳しくないヒトたちはこう思うかもしれ
ない。FFって前にエンジンがあって前輪を駆動するだけだから
シンプルじゃん、と。

しかし、これが難題だった。

ラリーなどをTVやネットで観戦するとよくわかるが前輪は常に
細かく、右、左、右、左と激しく操舵されている。あれだけ激
しく操舵され、ハンドルからタイア(前輪)までの機構に強い
負担がかかっている、そこへエンジンからの駆動力を与えるな
んて、どれだけの剛性を与えてやればよいのか途方もなかった
だろう。それにどのようなディファレンシャルのアイディアを
もって激しく動く前輪に駆動力を伝え続ければよいのだろう。

そろそろ読者は眠くなってきたかもしれないね。上記の難題を
いかに克服したかという興味深い話はそういう種類の技術書に
譲ることにして、無事FF車が完成したところから話を続けよう。

FF車の前輪はふたつの仕事を同時に受け持っている。

1.右や左にクルマの向きを変える仕事(役割)。

2.エンジンから伝わってきたパワー(駆動力)が前輪に伝わ
り、よって前輪が地面を蹴ってクルマを前に進めるという仕事。

えーっ!なんで、オレ(前輪)がふたつの仕事を常に同時にや
らなきゃならねーの?という前輪さんの不平不満の声が聞こえ
る。だって後輪なんて、ただ付いてきてるだけじゃん。車重を
支えているだけでしょ?黙る後輪、みたいな。

どれだけFF車の前輪に負担がかかっているか、動かぬ証拠があ
る。あなたのクルマがもしFFならば、そのクルマの前輪のゴム
山の減りは確実に後輪よりも早い。

FFだめじゃん、ではなくてFFはFRに比べて長所が多いのよ。だ
から世界中のクルマの九割がFFになったんだす。

FFのメリットは、4人が十分ゆったりと座れる空間を確保しな
がら、クルマ自体を小型化ができるので、狭い道でも運転が楽
な上、車重も軽いので燃費もよろしい。

さて、FFが世の中の半分くらいのシェアになってきた頃(メル
セデスベンツのSクラスやBMWの7シリーズはかたくなにFR。ま
た、メルセデスベンツのミドルクラスやCクラス、BMWの5シリ
ーズや3シリーズ(小型車)もかたくなに、なんと2017年
いまでもFR!です)クルマ好きの人々はこーゆっておった。

「FFのクルマ、買ってみたよ。うん、FFもいいんだけどさぁー、
やっぱハンドルにエンジンの振動がわずかに感じられるね。こ
ないだまで乗ってたFRはそんなことなかったもんなー」と。

そりゃ、そーです。仕方ない。FFは前輪に駆動力を与えている
のだから、ハンドルにわずかにビビビビ・・と振動が伝わって
しまうのです。

メルセデスベンツ社やBMW社はわかっていたのです。高級車を
名乗るからにはハンドルへの振動はたとえ微細であっても市場
で嫌われるであろう、と。

しかーし、人類の技術革新、製品の洗練への情熱はすさまじい。
わずか五年たらずで、その微細な振動をほぼなくしてしまった
のでした。

なので、FF車だけをつくるホンダはレジェンドという大型高級
車のFF車を販売開始して話題になった。まだ大型高級車と言え
ばFR車しかなかった時代です。それにFFってクルマをなんとか
小型化するために生まれた発想ですから。

・FF車だけをつくるホンダ
・FR車だけをつくるメルセデスベンツ、BMW

ま、ホンダのレジェンドが高級車と言ったって、メルセデスベ
ンツやBMWの体現する高級とはちと違います。三つとも乗った
(運転した)ことあるから、ぼくが感じたことです。

ま、少なくとも設計思想が全然異なるわけだが、上記三社はみ
な販売業績好調のまま、2017年、今年を迎えています。人
口爆発してるから、まともなクルマなら、たいていのクルマは
世界中で売れるわけでしょう。

というわけでFFの短所はほぼなくなってしまったのです。

ではなぜメルセデスベンツのSクラスやBMWの7シリーズはFRな
のか。この答えはたぶん想像するに、いままで培ってきたFR車
設計のノウハウが莫大だからなのではないでしょうか。FRの方
が彼らにとってはつくり慣れているし、FRであってもいまや居
住空間もずいぶん広くとれるようになりましたから。

前置きがだいぶ長くなってしまったw

では、なぜメルセデスベンツのSクラスやBMWの7シリーズのよ
うな大きくて重いクルマが存在するのか。

(続きはまたこんど!)


1990年に陸送のバイトでメルセデスベンツのSクラス(
560SEL)を90分ほど運転してみてわかったのは、当時、誰も
が記憶にある、あの迷惑極まりないベンツ運転に自分がなって
しまったことだった。

東京の首都高速に乗って、しばらくはおとなしく走らせていた
のだが、せっかくだからハンドリングもチェックしておこうと
思い、やや急ハンドルで(良い子はマネをしないように!)車
線変更を試みた。

メルセデスベンツ(どの大きさでも可)を一度でも運転したこ
とのあるヒトはご存知と思う。あの大きなステアリングを軽く
握り、切っていくと、メルセデスベンツは設計思想としてヒト
を信用しないゆえ、遊びが多く、切りはじめはモサーッとした
感じだ。

しかし慣れてしまえば、BMWのようなクイックなハンドリング
は望めないものの、安心感は絶大。サスの味付けと遊びの多い
ハンドリングとが相まって、首都高を走るクルマの誰もが嫌が
る「オレが首都高の王様だ、どけどけ、オレのベンツが通る」
といわんばかりの右や左へ連続した車線変更を安全に(もちろ
んミラーは見てます)遂行することができるクルマなのだった。

あー、ベンツのヒトの運転って横柄な態度で激しく車線変更を
繰り返すパターンをよく見かけるけど、こんなに急ハンドルを
切ってもクルマの挙動がこんなに安定しているんじゃぁ無理も
ないわー、と深く納得した日だった。

大船に乗った気持ち、というのがしっくりくる表現だった。

物理学を少しでも学んだヒトはよくご存知だと思う。我々人間
のサイズというのは地球の大きさと重力が決めている。だから
身長10cmの小人も身長25mの巨人もおとぎ話の中ならとも
かく現実には存在しない。(ごめん。夢をぶち壊すのがこの文
章の目的ではない。念のため)

身長175cm体重65kgの大人が4人、距離200kmの移動を
する際によく走るFFの小型車で移動してもいいし、メルセデス
ベンツのSクラスで移動してもいい。事故を起こさなければ結
果は同じだ。その4人は無事にA地点からB地点に移動できた、
ということ。

いや同じだろうか?仮にアウトバーン(高速道路)を両者とも
平均速度140km/hで距離200kmを走りきったとしても、所要
時間は同じでもドライブの疲労感が違う。つまり乗り心地が違
う。

ドイツの高速道路は路面が良いだろうから、たとえばフランス
やイタリアの田舎道には穴があいていたりする。メルセデスベ
ンツのSクラスならそのような穴ぼこもまるでなにもなかった
かのように通過していくだろう。強固なボディとサスとタイア
はもちろん、車重が衝撃を吸収してくれる。(これが今日一番
言いたかったこと)

時速60km/hで走行中、タイアがドンッと落ちたかな、と乗員に
わかるかわからないかくらいかもしれない。(ただし穴の直径
と深さによります)

なのでメルセデスベンツのSクラスやBMWの7シリーズを買うと
いうことは「走行中の乗り心地」を買っているということです。
(もちろん、そのヒトがステータス性だけでクルマを選ぶのも
自由です)

さらに、高速道路などで事故ってしまった場合、メルセデスベ
ンツのSクラスなら、エンジンルームが大きく、そしてまたメ
ルセデスの設計思想からエンジンルームをクラッシャブル(事
故時につぶれるように)つくってあるので、エアバックと相ま
って、さいごのさいごまで運転手および乗員の命を守ることの
可能性を捨てないクルマでもある。

エンジンルームをクラッシャブル(事故時につぶれるように)
つくり、4人が座っている空間は驚くほど強固にできているの
で、実際に高速道路で120km/hで走行中に大事故を起こしたに
もかかわらず、擦り傷ひとつないヒトもいる。

*

まぁ、ぼくならSクラスは買わないと思う。やっぱり大きすぎ
るから取り回し、つまり日々の運転が面倒だと思う。

小型のメルセデスベンツCクラスかミドルクラスのメルセデス
ベンツなら、あの遊びの多いハンドリング、遊びの多いアクセ
ル、遊びの多いブレーキの感じが好きなヒトは買ってもいいと
思う。

メルセデスベンツCクラスとBMW3シリーズなら、間違いなく
BMW3シリーズを選ぶ。なぜって?ハンドリングがダイレクト
だもん。運転してる!楽しい!というのがBMWの良さです。

けど、メルセデスベンツCクラスやミドルクラスのメルセデス
ベンツなら運転する楽しみは十分あります。ただしどの国で、
どのような道を走るかによると思います。

メルセデスベンツは革新。
BMWはコンサーバティヴ。

これが日本人の場合(ぼくもそうだった)頭の中でひっくり返
っちゃってるヒト、いませんか。

メルセデスベンツはどんどん新しいことをやっていく。

対するBMWはいままで培ってきた技術をゆっくり熟成、洗練し
ていく、というクルマづくりをやっています。でもスポーティ
なんだよね。BMWの良さは一度所有してみないとわからないと
思います。

同じ年に約一時間高速道路を飛ばしたポルシェ944のことは
またの機会に書きます。

最後に大船が大海で安定しているのと、メルセデスベンツのS
クラスやBMWの7シリーズが180km/hで高速道路を走行中に安定
しているのは、どちらも地球の重力に対する、運動している物
体の重さ(船やクルマにも重力がかかっていますね)が十分に
ある(十分に重たいということ)から安定しているという点で
同じだと言えますね。

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